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(さて、どう反応したらいいものだろうか)
とりあえずは霧人の話を聞く。
「お前みたいな輩が時々いるんだよ。といっても実際に見たのは4人目だけどな」
霧人は心底珍しいものでもそこにあるかのように誠を見つめる。
「あの……状況がよくわからないんですが、というかだから学校に――」
誠は言いかけて口をつぐんだ。
窓から差し込む日の光は僅かにオレンジに染まっている。
学校はもう終わってる時間だ。
「まぁ外にでてみればわかるよ、腰ぬかすなよ」
ぎぃ、と錆びた金属の擦れる音とともに重苦しい鉄製の扉が開く。
「なっ…………」
(何だよこれ……)
少なくとも東京でないことは明白だった。
先ず目に入るのはとてつもなく高く、雪のように真っ白な塔。
中心に他を圧倒してそびえ立つそれはたとえようのない荘厳さを漂わせており、先は雲と溶け合っているため見ることすらできない。
次に町並みがおかしい、目の前には東京の誇るビル群はなく、代わりにバブル前の日本のような町並みが広がっている。
こけから塔に近づくにつれて徐々に近代的なビルが増えているようだ。
「あそこに塔があるだろ。あれを俺達は『バベルの塔』とか『賢者の遺産』とか呼んでるんだが」
誠の気はお構いなしで「本当は名前なんてない。百年近く前の戦争の時に科学者達が集まって作ったらしい」とかってに話を進める。
ふらふらとかってに歩いて行こうとする誠を霧人がつかんだ。
「人の話はなんとやら、だ。ちゃんと最後まで聞け。だいたい行くあてもないだろうに」
自分の身に何か取り返しのつかないことが起きたのか――
「何なんだよ、これ…」
誠は恐怖と混乱で理性を失いそうになる。
知らない街で迷子になった子供と同じ心境。
霧人は一息ついて落ち着き払った様子で
「ようはお前は二十三世紀にきちまったって話だ、それ以上でも以下でもない」
と言い放った。
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