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月の光さえ届かぬ深夜の路地を鼻歌交じりに泥酔した青年が歩いていた。
青年、ジュゼッペ・カンビオはここ、リシリア王国きってのマフィア〝コルレオーネ組〟の会計係であった。
・・・そう、昨日までは。
しかし事もあろうに彼は組織の資金を横領し逃走したのである。
ついさっき酒場で払った代金もその横領した金から出したものだ。
一生遊んで暮らすことすら夢では無いほどの大金を抱えジュゼッペはうきうきと楽しい未来図を脳裏に描く。
「ジュゼッペ・カンビオだな?」
突如、背後から硬い男の声を投げ付けられた。
「ああ?誰だてめぇは」
やたらと凄みを効かせた声で応じジュゼッペは振り向いた。
彼の背後に佇んでいたのは二十代半ば程の灰色の髪の黒いコートを羽織った青年だった。おまけに右手の甲には薔薇のタトゥーが刻まれている。
「俺はキーツ・ローゼンベルク。〝騎士の城塞(クラック・デ・シュヴァリエ)〟の〝騎士〟だ」
「はぁ?騎士だ?ふざけんのも大概にしろや!!
大方組のモンだろうが、ぶち殺すぞ!!」
ジュゼッペは奇妙な事をほざく灰色の髪の青年キーツを恫喝した。恐らく組織の追っ手だろう。ジュゼッペは懐のナイフへ手を伸ばした。
「いや、厳密には我々の組織がお前の居た組から依頼を受けたんだ。
よってジュゼッペ・カンビオ。お前を始末させて貰う」
キーツはそう言うと腰に履いていた長い白銀の鉄杖を抜き放った。
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