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濃密な朝霧が幾つもの奇岩の尖塔がそそり立つ、孤島を包み込んでいた。
草木乏しい、無機質な不毛の地。
・・・そこには、美しい白亜の城が静かに佇んでいた。
「なあ、エルキュール。ヴェルディアの東で大規模な反乱が起こったそうだよ」
白と金で統一された壮麗な広間。その窓際にもたれ掛かり金髪の青年、シリウスは気障っぽい声を投げ掛けた。
「ああ、帝国陸軍マルクス中将率いる第七師団の反乱・・・でしたな。確かアルフォンス卿の管轄でしたか」
それに正対する形で佇む赤いシルクハットに赤いインバネスをまとった男が老成した態度で答えた。
「そう。・・・ついに俺達の盟主様は理想世界の建設を本格化するようだ」
シリウスは恍惚の表情とともに両腕を大きく広げた。
「成る程。ついに・・・
して、シリウス卿。小生をここに呼ばれたのはいかなる理由でしょうか?」
「近日、グラーフスハーフェンで帝国首脳による軍事会談が行われるんだ。・・・それをぶち壊して来て欲しいんだよエルキュール」
シリウスは美しい顔を綻ばせ悪魔的な謀略を友の耳元に囁いた。
「・・・悪趣味な。いくら〝三煌星〟の貴方の命とはいえ、そのようなテロリストじみた事をしたくはありませぬ」
「それがよ、てめぇの盟主様の命だとしたら?」
嫌悪を込めて吐き捨てたエルキュールに皮肉げな声をぶつけたのは、傍らの豪奢なソファに身体をだらし無く預けた男だ。
「まことか。ヴラド卿・・・」
ヴラドと呼ばれた、赤髪を逆立てた人相の悪い男は
おう、と唸った。
「・・・盟主の御命令だ。ただのテロリスト連中では思い付かない深謀があるのさ、きっと」
「・・・全ては盟主の御心のままに」
シリウスの優しげな甘い声が聞こえたかどうか。
エルキュールはここに居ない主に対して恭しい一礼を施すと、直ちに部屋を後にした。
窓の外に目を向ければ、すっかり霧が晴れ、真っ赤な朝焼けが眼下の世界を染め上げていた。
これから世界を覆い尽くす、革命と混沌の炎の訪れを予見するかのように。
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