『年上の彼女』

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僕は部屋を出て彼女の父親に、『家族にはまだ言わないで欲しい』と言われ泣き出しそうなのをこらえて、母親に話しかけられても「用事が出来た」とだけ言い残して、誰もいない場所まで走りました。街中であれだけの涙を流して大声で泣いたのは初めてでした。   それからちょうど涙が枯れた頃に、病院へ戻り出来るだけ普通に振る舞いました。   その夜、彼女の父親と銭湯へ出かけました。二人ともほとんど無言で風呂に入り、話す事といっても関係ないどうしようもない会話ばかりでした。僕は彼女の父親にはどうしても聞いておきたい事がありました。僕が彼女と結婚するって言ったら許してくれるかどうかでした。今考えると絶対に聞くべきではない時に聞いたような気がします。病院に戻る前に父親を呼び止めて、ストレートには聞けなかったのですが、『買ってきた指輪を彼女の指輪につけてもいいか?』と聞きました。彼女の父親は黙ってうなずくだけでした。
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