3138人が本棚に入れています
本棚に追加
平屋でかなり古びているとはいえ、まともな一軒屋である。家賃1万1000円というのは、どんなツテで借りたのか非常に興味があったが、なんとなく答えてくれそうにない気がして黙っていた。
家の近くに街灯の類もなく、ほとんど真っ暗闇だったのが、家の中に入ると当然明かりが点くだろうと思っていた。ところが玄関から奥へ消えた師匠がゴソゴソとなにかを動かしている音だけがしていたかと思うと、淡いランプの光がゆらゆらと人魂のように現れた。
「電気きてないから」
ランプを持った師匠らしき人影が、ほこりっぽい廊下を案内する。
スリッパを履いて、軋む板張りの床を足音を殺しながら半ば手探りで追いかける俺は「ほんとに借りてるのかこの人。不法侵入じゃないのか」というあらぬ疑念にとらわれていた。
リヴィングだ、という声がしてランプが部屋の中央のテーブルらしきものの上に置かれる。
暗い室内を探索する気力もない俺は、素直にランプのそばのソファに腰掛けた。
もとは質のいいものなのかもしれないが、今は空気が抜けたようにガサガサして、座り心地というものはない。
最初のコメントを投稿しよう!