家鳴り

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俺は意地悪く、言葉の揚げ足をとりに行った。 「2度ですよ。一日のうち、夜の2時半と、昼間の14時半の2度です」 ところが師匠は、その無遠慮な批判にはなんの価値もないというように首を振って、一言一言確かめるように言った。 「1度だけだよ。この時計がさしているのは、今の、この時間なんだ」 一瞬頭を捻ったが、その言葉になんの合理的解釈もなかった。ただ師匠はなんの疑いもない声で、そう断言するのだった。 パキン という音が響いた。 家鳴りだ。 俺は身を硬くする。 天井のあたりを恐々見上げるが、平屋独特の暗く広い空間と梁があるだけだ。 ミシ・・・・・・ミシ・・・・・・ という木材が軋む音が聞こえてくる。 実家にいたころはよく鳴っていたが、今のアパートに越してからは素材が違うせいかほとんど聞くことはなかった音だ。 まるで、柱時計が本来の時間と交差するのを待っていたかのように、家鳴りは続いた。
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