家鳴り

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「僕は、まだいるような気がするんだ」 師匠は目を泳がせて、笑った。 「彼か、あるいは、彼ではない別のなにかが。この家の地下室に。すくなくともこの家の中に・・・・・・」 その声は乾いた闇に吸い込まれるようにフェードアウトしていき、どこからともなく響いてくる金属的な軋みが絡み付いて、俺の背中を虫が這うような悪寒が走るのだった。 再びその暗い絵に視線が奪われる。 そして言わずにはいられないのだった。 あなたにはわかったんですかと。 ボキン、ボキンと骨をへし折るような空恐ろしい音がどこからともなく聞こえる中、師匠はすうっと表情を能面のように落ち着ける。 「わからない」 たっぷり時間をかけてそれだけを言った。 夜明けを待たずに、俺たちはその家を出た。 結局、師匠の秘蔵品は拝まなかった。とてもその勇気はなかった。いいです、と言って両手を振る俺に師匠は笑っていた。 のちに師匠の行方がわからなくなってから、俺はあの家の家主を見つけ出した。 1万1000円で家を貸していた人だ。
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