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店子がいなくなったことに興味はない様子だった。なくなった物も、置いていった物もないし、別に・・・・・・とその人は言った。
それを聞いて俺は単純に、師匠は自分の収集品を処分してから消えたのだと考えていた。
ところがその人は言うのである。
「ぼくがあの家を買い取った理由?それは何と言っても『地下室にいる』っていう興味深い書置きだね。だってあの家には地下室なんてないんだから」
結論から言うと、僕はその家をもう一度訪ねることはしなかった。
何年かして、ある機会に立ち寄ると更地になっていたので、もう永久に無理なのであるが。
この不可解な話にはいくつかの合理的解釈がある。地下室があるのに、ないと言った嘘。地下室がないのに、あると言った嘘。そして『地下室にいる』と書いた嘘。
どれがまっとうな答えなのかはわからない。ただ、深夜に一人でいるとき、部屋のどこからともなく木の軋むような音が聞こえてくるたび、古めかしい美術品に囲まれた部屋の、ランプの仄明かりの中で師匠と語らった不思議な時間を思い出す。
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