図書館

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掘ったら、とんでもないものが出てくるよ。たぶん。 そう言って、コツ、コツと床を指で叩く。 「だからそこに吸い込まれるように、昔からこの図書館には霊が通るそういう穴がたくさんある」 沈黙があった。 師匠が叩いた床をなぞる。長い時間の果てに降り積もった埃が指先にこびりついた。 ふいに足音を聞いた気がした。 耳を澄ますと、遠いような近いような場所から、確かに誰かが足を引きずる様な音が聞こえてくる。 腰を浮かしかけると、師匠の手がそれを遮る。 その音は背後から聞こえたかと思うと、右回りに正面方向から聞こえ始める。 本棚の向こうを覗き込む気にはなれない。 歩く気配は続く。 それも、明らかに二人のいるこの場所を探している。それがわかる。 この真夜中の書庫という空間に、人間は俺たち二人しかいない。それもわかる。
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