図書館

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奥歯の間から抜けるような嘲笑が聞こえ、師匠の方を向くと「あれはこっちには来られないよ」という囁きが返ってくる。 結界というのがあるだろう。茶道では、主人と客の領域を分けるための仕切りのことだ。竹や木で作るものが一般的だが、僕が最も美しいと思うものが、書物でつくる結界だよ。そして仏道では結界は僧を犯す俗を妨げるものが結界であり、密教でははっきりと魔を塞ぐものをそう言う。結界の張り方は様々あるけれど、古今、本で作るものほど美しいものはない。 ザリザリ。 革が上下に擦られるようなそんな音をさせて、師匠は背後にそびえる棚から一冊の本を抜きとった。暗い色合いのカバーで、タイトルは読めない。
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