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ふと、子供の頃に体験した不思議な出来事を思い出した。
「お葬式にいくのよ」と、母親に連れられて人が沢山いる場所に行った記憶。
随分早く着いたようで、砂利が敷き詰められた敷地の中で、始めて見るようなおじさんやおばさんたちと挨拶を交わす母親について回っていたが、それもだんだん退屈になり、「おしっこ」と言ってその場を抜け出した。
一人で歩いていると、立ち並ぶ大きな花の陰に手招きしている女の子がいる。
遊ぼうよ。と言うのである。
そして二人してあちこちを探検して回った。大人の気づかない楽しい場所を探して。
やがて母親に見つかり、「お焼香あげるのよ」と連れ戻される。
あの子はどこに行っただろうと振り返るけれど、姿は見えなかった。
木屑みたいなものをチロチロ燃える灰の中に落として顔を上げると、匂いの強い花に囲まれた写真立ての中に、さっきまで遊んでいた女の子がいる。
死ぬということがよくわからなかったころ。
それでも、よくわからないままに、なぜか少し悲しかった。
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