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『もし困ったことがあれば朔の夜に自分の血で我が家の紋章を描いてごらん。可愛い妖精がきっとお前の役に立ってくれる。ただしー』
少女は何年も前のことを思い出した。
キッチンで、野菜の皮むきをしていたところ…包丁で、ざっくり、と。
指から血が流れ出して、止まらない。
「困ったことがあれば…ね…」
流れる血を止めようともせずにただ見つめ、呟く。
少女は困ってはいない。
ただ、何日か前から一人暮らしを始めた。
両親が死んだからだ。
「困ってはいないけど…」
折しも今日は新月。
試してみてもいいではないか。
そう思い、少女は家紋を思い出しながら皿に描いた。
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