鍵穴

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僕は"鍵穴"に直接転送されていた。 その部屋にある出入り口は、一本の細く冷たい廊下だけ。 部屋内にあるのは、鍵穴を見張る上級兵一人と僕と、白と黒が混じりあった大きな扉だけ。 扉は丸い部屋の真ん中に位置し、そこに聳(そび)え立っている。 扉に鍵穴等…存在しない。 それどころか、前から見ても、後ろから見ても、何の変哲もない。 ただの大きいだけの扉。 これに何の意味があるのかさえ不明。 リノアスは笑顔で 「いずれ記憶に刻まれることになる。 鍵穴を見てきなさい。」 と言われ見送られたが… やはり意味がわからない。 何か感じるとしたら、3mはある大きさに圧倒されること。 そして、奇抜なデザインであること。 天使の片翼の様な形は白く、悪魔の片翼の様な形は黒く… 真ん中にはハートのようなデザイン。 それから生える二つの翼。 それを羽ばたくのを阻むように絡み付く薔薇の蔓(つる)のようなデザイン。 デザインばかりに凝っていて、本来の扉と言われる機能を十分に発揮しなさそうな扉だ。 要は、開きもしなさそうな扉という名の飾りだ。 あれ程、リノアスが敵意を剥き出しにしていたんだ… きっと大切な何か、なのだろうが… 理解しかねる。 ただの趣味の宝物…だったらどうしよう。 とまで思ってしまう程だ。 そんなことを脳内で黙々と彷彿(ほうふつ)させていると、割り込むように、声を出し始める兵士。 「知っていますか? 鍵穴って何か。」 僕は目を細める。 普通の兵士なら、僕を知っている。 僕を知っているなら、簡単に声を掛ける馬鹿はいない。 なぜなら… 僕が政府の殺人兵器だから。 僕は、睨む様に兵士を見つめる。 すると兵士は、慌てた様子でアワアワと話す。 「あっ!すみません!!! ここの護衛は、いつも暇な者で…つい…っ! ほら、いつも一人でしか護衛しない場所ですしっ!!!」 「…。」 僕は返事することもなく、相変わらずの視線を送り続ける。
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