内通者

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目の前で悪態を吐(つ)き、倒れ込む少年。 俺は、彼の前でゆっくりしゃがみ込む。 彼は腹部を押えながら、俯せになっていた。 腹部からは、まだ生新しい鮮血が流れ出ている。 「怪我してたのか…。」 俺は思わず、目を細めた。 何時間ぐらい前だろう… 服だけでなく、綺麗な銀髪にまで、酸化仕切った血が付いている。 こんな幼い少年が、どれだけの血を浴びたのだろう。 どれだけの血を流したのだろう。 俺は、彼の上半身を無理矢理起こし、仰向けにすると、腕と膝で彼を支える。 「ぁ…ん???」 仰向けにした彼に、違和感を覚える。 「ぁ…あぁ。 ま、良いか。」 勝手に納得する侵入者。 彼は、少年の腹部に手を翳(かざ)すと、ブツブツと何かを唱え始めた。 すると、手から淡い光が発される。 すると、徐々にではあるが傷口が塞がって行く。 「俺に出来るのは、これぐらいだ。 許せよ?」 ある程度、血が止まると、魔法を止める。 気を失った少年を、優しく抱き抱えると、ゆっくりと立ち上がる。 そんな中、不意に鳴り響く足音。 侵入者は、唯一の廊下に視線を向ける。 「君は…。」 そこにいたのは、黒が印象的な彼女… 大総統の秘書だった。 「久しいね、麗さん。 邪魔しに来たの?」 侵入者は、笑みを浮かべながら、話し掛ける。 どうやら知り合いのようで…互いに顔を見合わせながら、沈黙を続けた。 そんな沈黙を先に破ったのは、彼女だった。 秘書は、何も言わず、ただ深々とお辞儀をする。 「…?」 不可解な行動に、表情を顰(しか)める侵入者。 「フィリア様を…お願いします。」
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