内通者

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一瞬、彼女の言葉を疑った。 敵側の人間に対して言う、台詞ではないからだ。 しかし、彼女が顔を上げた瞬間、その意味がわかった気がした。 決意を持った人の目。 一点の曇りもない彼女の瞳。 彼女は彼女なりに、闘っている。 彼女の決意・願いを紡ぐためにも、俺は返事をした。 「あぁ、わかった。」 ただ、それだけ。 その一言だけだった。 でも、彼女は一瞬だけ、微笑んだんだ。 俺は… 彼女のためにも、成し遂げればならない。 この"鳥籠"を終わらせなくては。 『おい!レム! レムセイン!! 早くしろ!!!』 2人を引き裂くように響く声と騒音。 穴の開いた場所からは、物凄いエンジン音と、眩いばかりのライトが顔を覗かせる。 あれは、科学と魔法が融合した機械…飛行船だ。 「おっさん! ハッチを開けろって! 入れないだろ!?」 『あ、ワリィワリィ…。 って、おっさんはやめろって!!』 そんな下らない台詞を吐(は)くと、騒音に紛れ、ハッチが開く音がする。 俺は、最後に秘書を見つめると、そのまま背を向けた。 そして、彼女も止める事なく、ただ見送っていた。 俺は軽く跳ねると、そのまま魔法で空を飛び、穴からビル外へ出て行く。 再び彼女と出会えることを信じ、侵入者は内通者とも言える秘書に、その場を任せる。 「またね。」 それが侵入者の最後の言葉だった。 飛行船に乗り込んだ彼等は、騒音共に去って行く。 内通者は思った。 「これでよかったの。」 全ては貴方のために…。
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