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余裕をもって大学へ登校する。朝から賑やかなキャンパスを、僕はあまり好きになれない。
「おい、田川」
友人に声をかけられるのは久しぶりだった。
「おはよう」
「おう。お前さ、B棟の掲示板見たか?」
「掲示板? 見てないけど」
友人に無理やり手を引かれ、僕はその掲示板を見に行くことになった。
掲示板の前には人だかりが出来ていた。この人の多い感じが僕は苦手なのに。
その中を縫うように掻き分けて、掲示板に貼られている物が見える位置までたどり着いた。
「なんだよこれ……」
そこには進学用のポスターや、薬物反対のポスターなどが貼り付けられていた。
驚いたのは、そこに写る人物が全て僕だった事だ。
同じ男の肖像写真が、異なった全てのポスターに使われているのだ。その為、その掲示板は異様な空間を生み出していた。
反射的に僕はその全てのポスターを引き剥がした。
「誰だ!! 誰だこんな悪質なイタズラした奴は!!」
周りの人混みがざわつく。取り乱している僕はさぞかし醜いだろう。
「田川落ち着けって」
僕を連れてきた友人が肩に手を回してきたので、僕はそれを振り払いその場から逃げ出した。
何故僕のポスターなんかが存在するんだ。
その日はずっと周りの視線を感じるはめになった。
しかし、それはまだ規模が小さい方だった。
帰宅の電車の中で、僕は悲鳴をあげる。
乗客の視線が僕に集まる。悲鳴をあげたから僕を見るのか、それとも僕の顔を知っているから僕を見るのか……。どちらにしても、この状況に変化はない。
車内に貼られた広告類全てに、僕の顔が写っている。
ファーストフード店の広告には、ハンバーガーを笑顔でかじりつく僕の姿が。
大手携帯電話企業のポスターにも、ハリウッドスターの姿ではなく僕の姿が写っている。
どれもカメラを意識しないと撮れない写真ばかり。ただし僕にはそんな撮影をした覚えが全くない。
子供が僕の顔を見て指を指している。母親が子供に「指を指しちゃいけません」と叱りつけているのもわかる。
僕はこの箱の中にいられなくなってしまった。
だが時既に遅し。扉はタイミングよく閉ざされた。
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