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車体が動き始めた。僕はどの位置に身を置けばいいのかがわからない。立っていようが座っていようが、彼らの視野に入ってしまう。
ついには女子高生のひそめきが聞こえてくる。
「ねえねえ、あの人ポスターの人じゃない?」
「うわ、本当だ。ポスターの人だ」
僕はいつからポスターの人になったのだろう。
もう顔も上げていられなくなってしまった。
心拍数が増加している。穴があったら入りたいとはこのことを言うのだろう。
視線が痛い。この肌に突き刺さる感覚。耳を圧迫するような雑音。
次の駅で降りることを決めた。
扉が開くと同時にホームに飛び出す。そこでも息が止まりそうになった。
駅には大きな広告が貼られている。
そこに写る男の笑みは、僕ですら見たことがない僕の笑顔なのだ。
「一体どうなってるんだ」
プラットホームを駆け抜ける。出口を目指して、形振り構わず走る。
改札口を抜けた先に広がる大都会。立ち並ぶビルに、大きな僕の顔。
横切るバスに描かれた広告にも、やはり僕がいる。
知らない人達が僕を見て話題にしているのも痛い程感じる。
街は僕色に染まっていた……。
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