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逃げ場を失った僕は、駅前の長椅子に腰をおろした。
頭が錯乱していて、意識がはっきりしない。
絶え間なく耳に入ってくる他人の会話が、僕の脳内を掻き回した。
すると数人の子供達が僕のもとに駆け寄ってきた。
「ほら!! ポスターマンだ」
「ホントだ、ポスターマンだ」
僕の目の前で子供達はポスターマンという単語を連呼し始めた。
更に若いカップルが近寄ってきて
「あ、ほら。やっぱりポスターの人じゃん」
「おお!! ポスターマンじゃん。すげえ、一緒に写メ撮ってもらおうぜ」
何故僕は有名になったのだろう。答えはわかっているが原因がわからない。
カップルに手を握られている僕は、一体何者なのだろう。
「あ!! あの人」
「きゃあ、ホンモノだ!」
次から次へと人が駆け寄ってくる。まるで僕はハエ取り紙だ。
あっと言う間に僕の周りには烏合の衆が出来上がっていた。
「ポスターマン!! ウチの会社にもご協力下さい」
「いやいやウチの企業にお力をお貸し下さいませ」
背広姿の男達が大声で言い争いを始めた。仕舞には泣いて土下座してくる者まで現れた。
「何しているんですか。顔を上げて下さいよ」
僕は土下座する男の肩を優しく叩いてやった。
この時から僕の態度に変化があらわれた。
「お願いします。どうかウチの広告に。あなたの宣伝効果さえあれば、ウチの会社は倒産を免れることが出来るんです」
その男は何度も額を地面に押し付けた。僕は土下座されて頼まれたものを、断るような、無慈悲な人間にはなりたくなかった。
「わかりました。どうぞ、僕をポスターに使って下さい」
その瞬間歓声が湧き上がった。
とても良い気分だ。
ちやほやされる
そのような域はとうに超えている。
もはや僕は広告界の神だ。誰もが目にするポスターマンだ。
いつしか自分の中に高慢な人格が生まれていた。
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