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道を行けば、僕の顔が並ぶ。あれも、これも、全て僕。
そして行き交う人々が口を揃えてこう言うのだ。
「見て、ポスターの人よ」
僕が手を振れば女性が高い声を出して喜ぶ。そこに存在しているだけで、凄い凄いともてはやされる。
「これが僕の望んでいた世界なのか」
背後から声をかけられた。誇らしげに振り向くと、僕の視野内に警察手帳が飛び込んできた。
「田川 孝太郎。君を逮捕する」
警察が群れのように立ち並んでいた。
「え、……え!? えええ!!」
僕は反射的に逃げようとした。が、直ぐに取り押さえられてしまった。
必死に無実を訴えようとした。
「違うんだ!! 僕と広告には一切の関係もない。第一僕はあんな写真撮られた覚えがないんだ。盗撮だ!! 僕は被害者だ」
「何を言っているんだ君は」
訳がわからない。広告のことではないのなら、何故僕は捕まらなくてはならないのだ。
「銀行強盗の容疑、麻薬売買の容疑、一家殺害に通り魔殺人の容疑ときたもんだ。大犯罪者をお縄に就けるのは私達の仕事だろう」
「はい?? 僕はそんなことやっていない!! 濡れ衣にも程がある」
警察はコートの裏ポケットから紙の束を取り出し、僕に突きつけた。
「よくもまあ、こんなに指名手配書を1人で独占してくれたなあ。この顔とお前の顔、どこが違うって言うんだ」
《指名手配》の文字の下に、気味の悪い僕の笑みが浮かんでいた……。
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