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ムカデのような列が進む。
長い長いその中に、私もいました。列の先頭には、ライン引きを押すお爺さんがいました。
列の中には、
スーツケースを片手に持つおじさんがいたり
ミニスカートをひらひらさせた女子高生がいたり。
みんな白線を踏んで消さないように、気を付けて歩んでいます。
お爺さんが突然立ち止まりました。私達も当然立ち止まりました。
列の先を覗き込む私……とみんな。
遠近法で小さくなったお爺さんの前を、警察官が横切っています。
制服を着た警察官も、ライン引きを押していました。
彼のライン引きは新品で、赤い色。車輪の悲鳴も聞こえません。
もちろん、彼の後ろにも長い列が続いています。
その列が通り過ぎるのを待って、ようやくお爺さんは歩み始めました。
白線と白線が十字を描いて重なる。
それは別れ道誕生の瞬間。
十字の上で列を離れる人々。彼らは警察官を追って歩いていくのです。
無言でお爺さんの線から離れていく彼らにとって
いや、私にとっても
白線は「道」でしかないのでしょう。
耳にすることのない声
――それは「ありがとう」の声。
それでもお爺さんは、黙ってライン引きを押し歩くのです。
列は少しずつ短くなっていきました。白線が重なる度に、人々は離れていきました。
お爺さんは街の外に向かって、線を引いているようです。
行く宛のない私は、お爺さんの背中を追って歩いているだけ。
でも……それだけで、良かった。
傾斜の続く道。そこは人里離れた、田舎道。
道を下れば、すぐそこに街があるのですが
白線の数が少ない為か、ここらは人が集まりにくいようです。
お爺さんの背中は、手を伸ばせば触れることのできる程
近くなっていました。
振り返って見ると、私の後ろには人がいません。
だけど、二人になっても列は列。
ライン引きが通るのだから、私は安心して着いていけるのです。
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