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堂沢さん リスパンデント
菊はノートパソコンと向き合っていた。
操作しているというよりは、パソコンと格闘しているようだ。慣れない手つきが菊の機械音痴を物語っていた。
「ダメだ、天地さん。インターネットのつなぎ方がわからないよ」
テーブル席に腰掛けていた菊が、カウンターの天地に助けを求めた。
この店は三国 天地という男が、二十歳下の妹と開いた喫茶店だ。菊はこの店の常連客であって、天地の妹の家庭教師でもあった。
「お前みたいな不器用な男が、家庭教師のつらをして子供に学知を与える時代だなんて……世も末だとは思わないか」
「思わないね。――頼む、菊。妹の家庭教師はお前にしかつとまらない……って泣きついてきたの誰だったかなあ」
天地は、偉ぶる菊を見て大息をついた。洗いかけのコーヒーカップが重ねられる。
天地が近寄り、テーブルのねずみを二回程カチカチと叩くと、パソコンのディスプレイが切り替わる。それを見て菊は目を丸くした。
「え!?繋がったの?これがネット??いわゆるインターネット??」
天地は再び落胆の溜め息を菊に浴びせた。
「有能な家庭教師くん。後は俺が調べるから、君は向こうの洗い物をかたしておいてくれないかな」
彼らはある男の情報を集めていた。実質、相手が男であるのかも定かではなかった。
何故なら、その者は極度の謎に満ちていからだ。
菊と食器乾燥機との格闘が始まった頃、天地は目当てのウェブサイトを見つけた。
「見てみろ」
ディスプレイがカウンターに向けられる。サイトのトップページに書かれたタイトルが、黄色い光を発していた。タイトルの名は
『 どうざわネット 』
ディスプレイを見た菊は黙って頷いた。
『神が居るお悩み相談サイトを知っているか』ちまたで話題の噂話を、天地達は見逃さなかった。
なんでも、そのサイトの掲示板に悩みを書き込むと、サイトの管理人が親切に解決策を助言してくれるという。しかも、回答は百発百中。助言通りに物事をこなせば、全てが上手くいくそうだ。
店閉めの看板を下ろしに出た天地が、店内へ戻ってきた。菊は画面に食いついていた。
「この掲示板、本当にお悩み相談所みたいになってるよ」
「ああ、見たところ噂の裏サイトとはそれのようだ」
コーヒー豆の匂いが漂う。天地の様子は平然そのものであった。
「じゃあ、試してみようか」
天地は呟き、菊は答えるように微笑んだ。
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