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――プルルルル。
仁木島への呼び出し音は、天地が強制的に掛けさせた形で鳴り始めた。
乗り気でない菊が応答を待つ。
「出ないって」不安気な表情を天地に向ける。
が、天地は「もう少し粘れ」と小声で返した。
その後、すぐに受話器から声が漏れ出したのを、天地は聞き逃さなかった。
「繋がったのか」合図を送る天地。菊は黙って頷いた。
「もしもし、仁木島か?」
菊は携帯電話を片手に店内を歩き始めた。
「僕だよ、鈴木だよ。久しぶりだね」
鈴木 菊、菊自身は語呂が悪くてあまり気に入っていない名前であった。
天地は、歩き回る菊を静かに見守っていた。
「うん、元気にしているよ。ところで相談があるんだけどね。この前話した、裏サイト。そう、どうざわネットを見つけたんだ」
すると、菊が頻繁に頷き始めた。電話越しの相づちは、端から見ると滑稽に見える。
「そう、うん、そうなんだ。僕らで奴を……。だから相手の情報が欲しくて」
天地は、仁木島という男をあまり知らなかった。
菊の話によれば、若くして立身出世した有能な警察官らしい。菊の相談に的確なアドバイスをくれる、頼れる友人だそうだ。
「うん、頼んだよ。結果はまた知らせるから」
たった5分足らずの電話だった。最後の10秒は終話ボタンを探すのに手間取った時間だ。
「で、どうだったんだ」
「協力してくれるってさ。やっぱり仁木島も、ドウザワを相当気にかけているみたいだったよ。情報収集の宛てが、警視庁以外にあるって言ってたし」
今はとりあえず、仁木島の情報に頼るしかなかった。ただ、行動を起こさずにはいられなかったのだ。
「僕も頑張っただろ。たまには天地さんも、感謝してくれてもいいんじゃないかい」また、菊が偉ぶり始めた。
「そうだな。俺のコーヒーカップの弁償が済んでからなら考えてやる」
翌日、菊のもとに管理人の個人情報が記された手紙が届いた。
管理人の名前、年齢、住所だけが書かれた素っ気ない手紙だった。
「堂沢 治……。まだ15歳だよ」
「信じられないな」
手紙を見詰める天地の目は、復讐の一点を見詰めているようにも見えた。
天地は早速車を出そうとした。記された住所は喫茶店からさほど遠くはない。
菊は黙って助手席に乗り込んだ。走行中は沈黙が続いた。
天地の内ポケットの膨らみには、あえて触れない菊であった。
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