堂沢さん リスパンデント 

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 高層住宅のたち並ぶ街で車は停車した。 静かに車を飛び出した天地を、菊が後から追う。マンションの階段をせっせと上り、9階で部屋を探す。 『堂沢』の表札を見つけるや否や、迷わずインターホンを押した。  応答がないので、ドアノブを回してみると、錠の突っかかりがない。天地はそのまま戸を開いた。 「そこじゃないよ」 不意にかけられた声は、部屋の中からのものではなかった。先程上がってきた階段から、青年が顔を出していた。 「お前が、堂沢 治か」 天地はいつになく眉間にしわを寄せていた。 青年は何も答えずに、階段を駆け上がって行った。二人はそれを追った。  青年は屋上に追い詰められた。後ずさる訳でもなく、堂々と構えている。 「アンタ達が来ることは彼から聞いていたよ」 青年は風にかき消されないよう、声を張って言った。 「お前が本物のドウザワなのか」 天地はゆっくり、青年との距離を詰めた。 「ああ、僕は堂沢 治さ。だけど、ただの堂沢であって、アンタ達が探している本物の堂沢さんじゃない」 天地の歩みが止まった。 「僕は堂沢さんと繋がった選ばれし人間なんだ。僕は神の声に触れることができる」 「どうざわネットなんてものを作った、神様気取りのガキが言えることか」 天地は負けじと声を張り上げていた。菊は何も言わず、やりとりを見ていた。 「答えを知る者が、答えを欲する者に手を差し伸べて何が悪い。アンタの妹も、答えを欲していたから、堂沢さんと繋がったんだ」 「黙れ!!」立ち止まっていた足が息を吹き返し、天地は青年に飛びかかった。 「たった一人の肉親である兄が、本当は血が繋がっていなかっただなんて。知ってしまった妹さんが、自分の存在意義を問うのも自然の成り行きさ。知らない方が不幸さ」 青年はポケットから携帯電話を取り出した。天地も内ポケットに手を入れた。 「僕はアンタには殺されないよ」 凶器に触れた天地の手を、その一言が止める。  発信音が鳴る。プルルルル……。受話器から声が漏れた。 「もしもし、堂沢だけど」 確かに携帯電話はそう発した。 「やあ堂沢さん。僕はあと何秒の命だろうか」 「あと……10秒ないよ」 青年は不吉な笑みを浮かべた。 「彼の言葉が、全てだ」 死に際に発した一言だった。
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