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私は小さい頃から植物が大好きでした。
植物は愛し易いのです。愛をもって接すれば、その分成長して答えてくれます。
これ以上に扱い易い愛の形が何処にあるでしょうか。
だから、妻も植物の様に扱えば再び愛せるようになるかもしれない、そう考えたのです。
夕飯にカレーライスを作りました。栄養バランスが整っていて、良い肥料になりそうです。
目覚めた時の妻は、一番機嫌が悪いのです。ですので、慎重に起こしダイニングルームに導きました。
「何よこれ、全然辛くないじゃない」妻は一口だけ口に入れて、カレーと共に辛い言葉を吐き出しました。刺激の強過ぎる物は、植物には良くないのに。
美味しい、ありがとう、妻から聞く事のない言葉です。
嫌々食事を済ませた妻は、テレビに夢中でした。その内に私は庭の妻の世話をしに行かなければなりません。
柿の木の下、土からひょっこり顔を出す妻は可愛らしい。
「ほうら、お水ですよ」早速頭上に麦茶をぶちまけてやりました。
「ほうら、肥料ですよ」残りのカレーライスを首元の土に混ぜてやりました。
明日が本当に……楽しみになりました。
翌朝、目覚めた私は寝室のカーテンを開けました。驚いた事に、庭の妻の様子が変わって見えたのです。
振り返ると、ベッドで妻がいびきをかいて寝ていました。この隙に、私は庭の手入れに向かう事にしました。
近くで見てみると、昨日との違いがはっきり分かりました。
妻の両肩が地表に出て来ていたのです。これは成長のあらわれでしょうか。
嬉しくなり、私の分の朝食を全て庭の妻に与えてやりました。勿論、妻の分は妻が食べました。
妻は勝手に出て行きます。何も言わずに出て行きます。おそらく何処かで遊びまわっているのでしょう。
その間私は、金融会社で働き、金を稼ぐのです。昼間は家に誰もいません。庭の植物たちが心配になります。
それでも我慢して私は働きます。生活の為、自分の為、園芸の為。そして一応、妻の為にも。
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