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その愛らしい姿を見て自虐の笑みを至福の笑みに変え、一先ず挨拶代わりにポチの頭を撫で回す。
冷えた手を暖めてくるポチの体温がとても心地よい。ポチもポチで気持ち良さそうに目を細めた。
それが嬉しくて調子に乗って撫で続けたら、早くしろと怒られる。
愛より散歩。ポチは淡白な奴だった。
しかしもたもたしている時間が無いのは事実。やや早足で寝床に戻り、布団の脇に脱ぎ捨ててあるジャージに着替えて犬小屋へと歩く。
待ってましたと飛びかかってくるポチをなだめつつ縄をほどき敷地から出るべく玄関に戻った。
ところが突然黒電話が派手に鳴り響く。
こんな時間にかけてくる人間は、プライベートでは居ない。十中八九大門署からだろう。
「すまん、ポチ」
愛くるしい目で橋爪を見たポチが、哀愁漂う背を向け自ら犬小屋へ戻っていく。
聞きわけが良いのは助かるが、勝手ながらまだ我が侭を言われた方が救われる思いだ。
橋爪は何度も何度も謝ってポチの縄を杭に結び、深い溜め息を吐いて居間へと急ぎ戻り受話器を持ち上げる。
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