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「荻野には?」 「これからです」 「分かった。署で合流すると伝えてくれ」 「了解しました」 静かに受話器を置き座布団の上に脱ぎ散らかしたスーツに着替え、妻の遺影を飾った仏壇の前に座り手を合わせる。 挨拶を早々に済ませ台所へと歩いていき、ラーメン用の丼にポチのご飯を多めに盛って戸締まりを確認しながら犬小屋に戻った。 いつもは元気良く尻尾を振って出迎えてくれるのだが、ふてくされているのか小屋に籠ったまま出てこない。 とりあえず名前を呼んでみると顔だけは向けてくれたので指を三本立てて見せた。 朝、昼、夜と三回に分けて食べてくれと言う意味だ。 頷くように喉の奥で小さく吠えると直ぐに顔を背け寝に入る。 深い謝罪の念を手の平に込めてポチの頭を撫で、猫の額ほどの駐車場に停めてある愛車のビートルに乗り署へと走らせた。
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