第二章

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 今日も学校でジャイちゃんとスネ子に虐められた。  虐められると目頭が熱くなる。前まではこんなことなかったのに、このままではいつか泣いてしまうかもしれない。  人前で涙は見せるな、は魔法少女アンの口癖。だから私は目頭が熱くなると、執拗につきまとってくるジャイちゃんを振りほどいて家まで逃げ帰らないといけなかった。  胸が熱くなる。頭の中がごちゃごちゃしている。辛かった。こんな気持ち、久しぶりだった。絵を描くことに対する気持ち以外はずっと忘れたと思っていたから、私は戸惑った。どうすれば良いかわからなかったので、私は玄関の靴箱をとりあえず殴りつけてみた。痛かった。当然だった。 「今日はまたこっぴどくやられたもんだねえ」ついさっき私が入ってきた玄関から声が聞こえた。「ちょっとはやり返しなよ」  ふわ子だった。ふわ子は玄関を開けずに、そこから顔だけを突き出していた。幽霊の特権だった。  学校でも家でも、ふわ子は私の周りをふわふわしている。当然、虐めの現場も目にしている。 「ほっといてよ」  私はそっぽを向いた。人前で涙は見せるな、自分で自分にそう言い聞かせた。 「辛いの?」  私は答えなかった。答えたくなかった。  壁をすり抜けて、ふわ子は私の周りをぐるぐるふわふわと飛んだ。無言の私を見て、ふわ子はふっと笑った。 「あたしのせい、かしらね」 「……え?」 「あんたさ、今までは虐められてても何も感じてなかったんでしょ?」  ふわ子が私の前に現れ、初めての友達になった。故に私は人と触れ合うことの温かさを知った。だから―― 「だから、あたしは自分が余計なことをしちゃったんじゃないかって思ったわけ」  そんな気がする、とふわ子は呟くと、馴染みのメロディを口ずさんで壁の向こうへ消えて行った。  人前で涙は見せるな、見せたら魔法の力はなくなっちゃう……、魔法少女アンの主題歌だった。  私は誰もいない玄関でひとり泣いた。
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