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ふわ子は、自分の死については語ろうとしない。
だれだってそうだろう。死ぬときのことは考えたくないし、死んだとしてもそんなこと思い出したくない。
だから私は聞かない。ふわ子が自分で話すまでは聞く気はない。
「朝ご飯よ、夏子」
母の声が階下から聞こえる。こうしていつもの一日が始まる。今日は絵を描く時間があればいいと思う。
学校はいつも通りだった。
いつものように退屈な授業を受け、私は問題児だと決めつけている先生に怒られ、いつものように苛められ……、いつもの一日を耐える。苛めの内容は思い出さないようにしている。日記にも書きたくないし、絵にも描きたくない。
「おーい、死んだ?」
生きてる、まだ。
残念なことに、まだ。
「ありゃりゃ、だめか。ハデにやられちゃってさあ。ちょっとはやり返せばいーじゃん。こんなになるまで、あんた、バカでしょ。バカよ、バカ。今改めてわかったわ。あんたはバカ、バカバカバカ。バカの中川さん。略してバカガワ、きゃっは! 笑えるんですけど!」
「うるさい」
「おっと、生きてたか。こりゃ失礼」
いつものように白いワンピースに身を包んでいるふわ子は、舌をぺろりと出して、可愛らしげに微笑んでみせた。
ふわふわと浮きながら。
ふわふわ、ふわふわ。風に浮くでもなく、鳥のように飛んでいるでもなく、ふわふわしているとしか言いようのない、そんな、
「ふわふわ」
「へ?」
「あなた、ふわふわふわふわ、邪魔なのよ。私の何なの? さっさとどっか行ってよ。それとも何、イジメのつもり?」
ふわ子はきゃはきゃはと笑った後、どこかへ消えていった。ふわふわ、ふわふわ、と。
そんな気はなかったのに、消えてしまった。ふわふわ、ふわふわ、と。
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