第三章

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 ふわ子のいない毎日は、地獄だった。  いじめが別段エスカレートしたわけではない。ジャイちゃんとスネ子はいつもと同じように私をトイレへ連れて行く。そして、飽きもせず同じ仕打ちを続けるのだ。  私はそれをじっと耐えるだけ。授業中には絵を描いて、そしてまた先生に怒られる。  ただそれだけ、それだけの毎日。  辛かった。ふわ子と話したかった。また楽しい話をしたかった。  寂しかった。だれかと話したかった。何かを話したかった。 「ただいま」  今日もまた涙をこらえて家に帰ってきた。そこに優しく声をかけてくれるふわ子はいない。そう思うと、ぶわっと涙が溢れてきた。 「あら、おかえり、夏子ちゃ……」  誰もいないと思っていた家に、母がいたことが驚きだった。見られた。泣き顔を見られた。 「どうしたの、夏子ちゃん?」  びっくりして聞いてくる母を無視して、私は階段を駆け上った。私は自分の部屋に入ると鍵をかけた。なおも声をかけ続ける母の声を無視して、布団に潜り込んだ。もう煩わしい声も聞こえない。  気づけば眠っていた。夢を見ていた。  何だか暖かくて、ふわふわとした、そんな夢。私はきっとまだ生まれていなくて、暖かい水に包まれていて、それはきっと胎内だったんだと思う。だけど、それをはっきりと理解する前に私は起こされた。 「夕飯よ、夏子ちゃん。出てきて」  扉をノックする音が聞こえる。  心地よい眠りを妨げられて、私は少しいらいらしていた。  なおもノックする音に私は声を荒げた。 「うるさい!」  ノックは止んだ。これでもう一度、眠りにつける。今は絵を描くこともしたくない。ただ、寝ていたかった。
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