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二人がいなくなっても、私は笑い続けた。きゃはは、きゃははは、と。
笑って、哂って、嘲笑して、自嘲した。
「あんた、泣いてんじゃん」
はっとして振り返る。
「ふわ子……」
「んー、まあまあ、かな? このトイレならだれも来ないだろうけど、そんなこと続けてたら誰からも嫌われるから注意がいるわね」
「ふわ子」
「あ、でも、そんなバカな子でも好きになってくれる人は必ずいるよ。私がそうだったから」
「ふわ子!」
「なによ、うるさい」
涙がじわっと溢れてきた。
せっかくの、ふわ子の顔が見えない。
「よくできました、夏子」
ふわ子が私をそっと包み込む。いつかそうしてくれたように。
優しく、優しく。
「わ、私、ほんとは、ずっと、友だちが欲しかった。けど、けど、いなくなることが怖くて、話しかけることができなくて、だから、だから……うぐっ、うぐ」
ふわ子は泣きじゃくる私の頭をぽんぽんと叩く素振りをしてくれた。
だけど、その手が私の頭に触れることはない。ふわ子は幽霊だから。
「新しいお母さんだって、仲良くしてても、いつか、いなくなっちゃったら、そんな、そんなこと……」
ふわ子は、うんうん、と優しく頷いてくれた。
「母さんだって、ちっちゃかった頃にいなくなっちゃった……今じゃ顔も思い出せない……ひぐ、うぐっ。こんな、こんな想いするなら、っぐ……はじめからだれとも関わらないほうがいいと思って」
「ごめんね、夏子。私が置いていってしまったばっかりに」
顔をあげると、いつも笑っていたふわ子が涙をこぼしていた。ぽろり、ぽろり。
「ううん、悪くないの」と私は言った。「悪いのは私なの」
「ううん、ごめん、ごめん、夏子」
「……ふわ子は、母さんはっ! 母さんは何も悪くないの!」
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