第四章

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「さて……、そろそろいかなきゃね」 「え?」 「いつまでも親に頼る気? グロッキー帳、あたしの代わりだったんだろ。いつまでもママ、ママって、あたしも親バカだったけど、あんたは子バカだね、コバカ」  コバカ、会った当初に言われた言葉を思い出す。また小馬鹿にして……ああ、子馬鹿か。そっか、そっちだったんだ。 「じゃあ、母さんは行くよ。できたら今度は顔くらい覚えておいてほしいな。ま、ちっちゃかったから仕方ないっちゃ仕方ないんだけどね」  母さんは、宙へと浮き始めた。ふわふわ、ふわふわと。 「待って、母さん!」 「あ、そだ。あんた、メガネやめ。これ命令だから。女は顔よ、顔。あたしなんて、顔だけで生きてきたんだから。きゃははは、きゃははは」 「母さん、待って!」 「ハッピバースデイ、愛しい、あたしの……夏子」  ふわふわ、ふわふわ。  ふわふわ。ふわふわ。ふわふわ。  出会ったときと同じこの場所で、出会ったときとは違ってゆっくりと、母さんは消えていった。空に透けるように消えていった。ふわふわ、ふわふわ、と。  完全に消え去る瞬間に見た母さんの笑顔は、この世界で見たどんなものよりも眩しくて綺麗だった。 「ふわ子は、私の一人目の友達で、一人目の母さんだったよ……」  私は誰にともなく、呟いた。  不思議と哀しみはなかった。それはきっと、母さんが私に勇気をくれたからだと思う。
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