第四章

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 昨日は結局、漫画研究会には行かなかった。  その代わり私はいの一番に帰宅して、台所にいる母に声をかけた。 「ただいま、お母さん」  形式的なものじゃなくて、本当の気持ちをこめて“お母さん”と呼ぶのは勇気が必要だった。 「おかえり、夏子ちゃん」  嬉しそうに言うその顔を見て、私は何だか恥ずかしくなって部屋に戻ってしまった。このままじゃいけない、と思って、グロッキー帳を手にして台所へと戻る。今度はさほど勇気を出さなくても良かった。 「どうしたの、今日は?」 「なんでもない。そのまま料理続けて。絵、描くから」 「そう、夏子ちゃんの絵を見るのは楽しみね。ふふ、今日は張り切っちゃおうかしら」 「駄目、いつも通りにして。自然体が一番なのよ」  そう言ってペンを持った私を見てお母さんは微笑んだ。  夕飯時には父さんも交えて、談話した。私は将来の夢を語ってみた。  馬鹿にして笑うでもなく、頭ごなしに否定するでもなく、二人は真剣な顔で聞いてくれた。 「今は夢を追いかけなさい。父さんと……」父さんはお母さんと私の顔を見比べた。「父さんと母さんは、夏子のこと応援してるから」  私は、ありがとう、と言うので精一杯だった。涙が出そうだったので、食器を片すと慌てて台所を飛び出した。こういうところは直らなかった。まあいいかと思う。
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