第四章

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 あれから四年が過ぎて、オリンピックもやってきた。 「新刊出たんだってえ、ほらほらー」  街角の小さな本屋で、小さな女の子が母親に漫画を買うようにせがんでいる。 「何の?」 「飛行少女フワコのー」 「また今度にしなさい」 「やだっ。買って買って!」 「仕方ないわね……」  母親が折れるのを見て、女の子は満足気に本を手にした。  嬉しそうに母親をレジへと引っ張る少女を見て、二十二歳になって、あの母さんと同い年になった私は思わず微笑んでしまった。  あの夏、私は虐めに疲れていて、あの夏、私は幽霊に憑かれていた。  いま、私は虐めに打ち勝って、いま、私の顔はあの幽霊そっくりの女性に成長していた。ふわ子に、母さんにそっくりな理想的な私に。  こんな私をふわふわしながら母さんは見ているんだろうか。見ていればいいと思う。  私は誰も見ていないか確認して、きゃはは、と小さく笑ってみた。少し、恥ずかしかった。     【了】
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