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勉強はつまらない。やったってどうせわからないから。
そんなことより私は、好きな絵を描いていたい。大好きな絵をもっと描いていたい。描きたい。だから私はペンを走らせる。教科書の片隅に、ノートの真ん中に。縦横無尽に。
「おい、中川」
私の右手の紡ぎ出すキャラクターはまだ稚拙だけど、それでも、それらは私の魂を込めた最高傑作の数々なのだ。最高傑作。最高。私の最高――これが私の限界。
だけど、もっと上手くなりたいから、その限界の壁を越えたいから、私は描く。
限界の向こうは無限大。私のリスペクトする声優さんは、そう歌っていた。私は描きあがったばかりのキャラクターの隣に、『限界の向こうは無限大!』と短くふきだしをつけた。
似合ってる。これいい、すごくいい。
私はその出来栄えに満足して、小さくガッツポーズした――
「中川夏子!」
――ところを、はたかれた。これじゃ状況がよくわからないな。
私は整理することにする。ごだぶりゅー、いちえいち。五つの“W”と、一つの“H”。だれが、いつ、どこで、なぜ、どのようにして、はたかれたのか。
私が、授業中、教室で、絵を描いていたから、先生に学級名簿で強く、頭をはたかれた。
完璧な日本語だった。思わず自画自賛するほどに。
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