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そもそも、なんで幽霊がいるのか、私にはわからない。
その日、いつものようにジャイちゃんにトイレのモップで頭をわしわしされてたら、いた。なんかとつぜん、いた。
最初は別のクラスの子かと思ったけど、年上っぽいし何か空飛んでるし、空飛んでるから魔法少女かと思ったけど、何か服装は普通のワンピースだし……、私はどっちの仮説も違うという結論を下した。
別のクラスの子でなく、魔法少女でもないと、私のこの紫色の脳細胞は捻り出したのだ。私って案外、頭いいかもしれない。
だから、調子に乗って聞いてみた。ジャイちゃんとスネ子に。
――この人だれ、って。
ジャイちゃんとスネ子は不思議そうな顔をしたけど、すぐに無視して今度は私の顔を便器に突っ込んだ。これは正直、きつかった。
私がいじめられてる一部始終を、女の人は、ふわふわふわふわ、浮きながら黙って見つめていた。なんか正直、きもかった。
ジャイちゃんとスネ子が満足して帰ったあと、その子は初めて口を開いた。
「それ、楽しい?」
「楽しくないよ」
首を振って答えたけど、正直、話したくなかった。
私は話すのが苦手だから、話したくない理由としてはすごくまともだと思う。
「あっそ。やめたら?」
簡単に言われたけど、やめられない。私は返す言葉もなく、黙った。
無言の私を見て、その子はふふん、と笑った。
「あんたは何が楽しいの?」
「絵」
「え?」
「絵、絵を描くこと」
白いワンピースの裾をつまみあげながら、その子は、ふわふわふわふわ、と思案した。
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