第一章

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 ふわふわ、ふわふわ。  ふわふわ。ふわふわ。ふわふわ。  彼女は、浮きながら言う。 「じゃあ、いじめられてる暇あったら、絵、描けば?」  できないから困っているのに、いけしゃあしゃあとこの子は―― 「……よ」  私の静かな怒りを言葉に乗せた。けれど、彼女には聞こえなかったらしい。案外、聞こえていてわざと、かもしれない。 「へえ、なーに? なにかしら、バカガワさん?」 「うるさいっ! できたら苦労しないのよ! できたらっ、何もっ、何も苦労しない!」  バカガワ――この子までそう呼んできたことは意外だったけど、そんなことにまで気が回らなかった。  無神経な、女の子の口調。小馬鹿にしたようなその口調。  見下したかのような視線。私を見つめるこの視線。  なぜだか、とても腹が立った。 「……人を、小馬鹿にして!」 「……コバカじゃん」  彼女がおうむ返しに言った言葉は、むかついた。頭に来た。鶏冠に来た。 「……っ!」  文句を言おうとしたけど、言えなかった。言葉が思い浮かばなかった。  私はジャイちゃんに水をかけられた姿のままトイレを飛び出した。  くしゃくしゃの髪の毛で、教室にかけこむ。泣きそうな様子を見て、クラスメイトたちがくすくすと笑いをこぼす。  だけど、そんなことどうでもよかった。  久々に動揺した。  何もかもを見透かしたようなあの子の瞳が怖かった。そりゃあ幽霊だもん。なんか浮いてたもん。怖いに決まっている。  昂る気持ちを落ち着かせるには、ゆっくり絵を描くのがいちばんだ。  家に帰れば、ジャイちゃんもスネ子もいない。  家に帰れば、あの変な子もいない。  ――私のベストプレイス。  教室から下駄箱へ、下駄箱から校門へ。  走って、走って、走った。走れメロスならぬ、走れ私、だ。
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