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「パパー、夜は蛍見れるよねぇ!」
5歳になった息子がはしゃいで俺に飛び付いて来る。
「あぁ、そうだなぁ、今日は蛍さんも元気かなぁ。」
「蛍さんって何ぃ~?」
2歳になった娘もおぼつかない足取りで追い掛けて来る。
「ホラぁ、ユリちゃん危ないわよ」
妻のサユリも後を着いて来た。
夏休みで、田舎の実家に戻って来てみたが、たまには緑に囲まれるのも気持ちいい。
「おぃ、3人で先に家に戻っててくれ。ちょっと懐かしくてな。」
「もぅ、ずるいわ1人だけで。私だって…」
「まぁまぁ、すぐ帰るからさ。」
妻の言葉を遮るように促す。
「もう…」
なんだかんだ言いながらも理解のある妻だ。
『東京に移り住んでから、こんなに気持ちが開放されたことはあったかなぁ。』
小川の脇の土手を歩きながら、清々しい気分になる。
……ザワザワザワ……
不意に風が森を動かす。
全身を通り抜けて行く風。
ふと、湿った風のニオイが鼻から入り込んできた……
『タクトのことは好きだよ。けど……』
『………!?』
……このニオイが鼻をつく度に、俺の脳は、あの陽の当たらない場所を這いつくばっていた記憶に占領される………
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