22/32
前へ
/213ページ
次へ
「多分、これ以上引っ越しているだろう。しかも阿佐ヶ谷のアパートも大家に確認した所、一週間前に家財道具を置いたまま一回も戻ってきては居ないみたいだ。その後の所在はまだ確認は出来ていないが、おそらくホテルや漫画喫茶などを転々としているんだろう」 「転々って。麻沙美にいったい何が」  春山刑事は横に頭を振る。こうなると俺には何が何なのか分からない。俺が手で顔を覆うと、春山刑事は俺の顔を捉えて言った。 「もう一つ確認出来たことが有るんだが」 「何ですか」 「美保ちゃんは間違いなく、麻沙美の子どもだ。産婦人科に記録が残っていたよ。裏も取れている」 「…」 「何でも美保ちゃんが生まれる三日前に、その産婦人科に出産の為に麻沙美が緊急入院したんだが、見舞いや付き添いが一回も無いまま退院したので、病院の皆が覚えていたよ」  俺は春山刑事の言葉に違和感を覚えた。麻沙美は両親と仲が良く、両親は極度の心配性だった。麻沙美の父親が海外転勤になった時も、麻沙美を海外に連れて行くと言って麻沙美を困らせていたのだ。だからこんなにも麻沙美のことを溺愛していた両親は、例えどんな事が有っても麻沙美の見舞いに来るはずだった。俺はこの違和感を春山刑事に投げ掛けた。 「付き添いが一回も? 麻沙美の両親もですか?」 「ああっ、調べたところ麻沙美の両親は二年前に同時に事故で亡くなっている。それでも美保ちゃんが生まれたのは麻沙美の両親が健在だった時の話だ。どうも麻沙美の周りは不可解な点が多すぎる」
/213ページ

最初のコメントを投稿しよう!

282人が本棚に入れています
本棚に追加