甘美な罠に酔い痴れたい

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そこの食堂は旅人の間ではそこそこ有名である。 美味しい事は当然、ガラの悪い奴らの溜り場でも、だ。 「あんたら、旅の連中か?」 赤毛のバトル・アックスを腰にぶら下げた、傭兵スタイルの男が店の隅にいた五人を見付け、声をかけてきた。 リクが一番近くにいたので無言で頷く。 この無言で頷くという動作、中々格好良いものだが今のリクはそうしたくてしたわけではない。 口の中に本日のオススメ料理が入っていたため、声を出して返事することができなかったのだ。 まぁ、そんなことに気付いている様子もない男は五人を一瞥し、馬鹿にしたように笑う。 「まだ全員青二才じゃねーか。よく旅なんてできるよな、今まで運が良かったんじゃねぇ? 俺の勘だと近いうち山賊にでも身ぐるみ剥がされるぜ」 つい今し方、その山賊から身ぐるみを引っ剥がしました。 根こそぎ。 「俺はアグルってんだ。 どうだ剣を持った兄ちゃん。 手合せしてみねー?」 何をどうしたら手合せということにな… 剣を持った…兄…ちゃん… 周りが危険を察するより早く、リクの手は手近にあった空のトレイを引っ掴み、そのまま後ろに振り上げた。 ぱかん 軽い音がする――――はずだった。  がしょ‼ が実際に聞こえてきたのはもっと大きくて痛そうな音で……あ、角が顎に入ってる💧 「…おい…」 「…俺は悪くあらへんわぃ」 剣士というと大抵が男をイメージする。 だからといって剣士=男ではない。 そりゃー、多少そこらの男より強くて、性格も言葉遣いもあれだが、リクはれっきとした女である。
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