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「面接はさっきわたしがしたから大丈夫。名前はノエル君で、顔も結構カッコいいから客寄せにはいいと思うよ」
「なるほど……今は忙しい時期だから人手がほしいと思っていたところだ。でかした小雪!」
「ちょっと待て!俺は――」
「よろしくノエル君!」
話はノエルが入る隙間もなくスムーズに進んでいき、小雪の父親は笑いながら店の奥に帰って行った。
こうしてノエルは、小雪の店でアルバイトをすることになった。
「俺の意見は無視かよ…」
「タダで食べたんだから体でお金を払うのは当り前でしょ」
「ヤダ!俺はここまで遊びに来たんだ!それなのに仕事なんてしてたまるか!」
「言い訳なんて聞きませんよ」
小雪は笑顔だったが目が笑っていなかった。
その表情を見たノエルは危機感を感じて、諦めたようにこくりと頷いた。
「ところで、こんな所まで何しに来たの?」
お金も持たずに、こんなところまで来る意味が小雪には全く分からなかった。
外国人らしいが、日本語もペラペラだから日本に住んでいるのだろう。
だったら、観光旅行というわけでもないし、もし観光旅行だとしても、こんな田舎に来る外国人なんていないだろう。
小雪の店のケーキが余程美味しいのなら話は別だろうが…
「さっきも言っただろ、遊びに来たんだよ」
「そんなことはわかってるわよ。わたしが聞きたいのは、お金も持たずになんでこんなところをウロウロしているのかってこと」
「仕事が面倒臭かったから逃げてきたんだよ」
「呆れた…」
小雪は本当に呆れて、ため息をついていた。
それを見ていたノエルは不機嫌になり、
「お前に俺の気持はわからないだろ」
と、言ってきた。
そして、小雪は急に真顔になりノエルを見つめると真剣に話し始めた。
「でも自分の仕事でしょ?それなら最後までやらないと…」
「俺はあの仕事が大嫌いなんだ!お前だって、このケーキ屋でずっと働かないとダメなんだろ?嫌じゃないのか?」
「わたしはこの仕事好きだもん。お父さんとお母さんが一生懸命頑張ってきたこの店を継ぐのが、わたしの夢でもあるわけだしね」
小雪は正直な気持ちをノエルに言った。
その言葉を聞いてノエルは何かを思ったのか、それ以降は何も言わなくなってしまった。
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