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歩道橋を、俺より一歩先に歩いて、振り返りもせず答える。
…視線の先には紅い紅い夕陽。
「…景慈でも同じ事考えるんだな」
言葉を洩らすと、同時に笑い声。
「どういう意味で言ったんだ、それ」
肩をすくめて。
「どんな人間にも感傷的に映る物を見て、景慈が同じ様に感傷的になるのかって思った」
だから俺も素直に言葉にしてみた。
それは───、言葉そのままの意味じゃなくて。
奪われたく無い、例え他の人間が一瞬にして心奪われる物でも、他の人間と同じ様に景慈の心を、目を、奪われたくは無かった。
「どんな人間にも感傷的に映るんだから、俺にも感傷的に映って当然じゃ無いか」
だから、景慈のその言葉は。
「景慈───、」
これが、きっと嫉妬と言う感情。
振り向かない景慈の腕を強く、引き寄せる。
ぶつかった景慈の瞳が、痛い。
「もみじ───??」
瞳の中の、紅い光、こんな時まで邪魔をする。
「…こっち、見ろよ…」
擦れ合う額。
「見てるさ」
俺の頬が紅いのは落ちる陽のせいだ。
理由付けして。
「止めろ、照れる」
吹き出して景慈は言った。
「お前が照れる??嘘吐けよ。お前にそんな感情があったのか」
馬鹿にされた様で、なんとなく面白く無い。
俺もついつい口唇を尖らせて言い返す。
「表面に表れる物全てが本当だと言うのはほんの一握りの例だ、本当の事はいつだって奥底に隠れてる」
固く触れた腕から指をほどく。
…全く、減らず口だ。
「特に俺の場合は」
ほどけた指を引き寄せた景慈は、その指に小さく口付けをした。
触れたか、触れないか分からない程の、浅い浅い口付け。
「景…」
真意が掬い取れない。
だから俺はため息を吐く。
「愛してるよ、紅葉」
重なったのは二つの陰。
**
「───知ってるか??」
暮れかけた陽の中。
景慈がそっと口を開いた。
「陽が落ちれば、別れなきゃならないだろう??」
───お前と。
だから俺は感傷的にならざるを得ないのさ。
そう教えてくれた景慈に、1001回目はため息じゃなく、甘い甘い吐息。
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