1000と1のため息

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******** 一日の授業が終わると、景慈は真っ直ぐに図書室に行く。 入学の日から続いている景慈の日課、らしい。 今年は違うクラスになったけど、何と無く一緒に帰るのが日課になってしまったのは俺の方。 昼休みでさえ人の姿の少ない図書室は、放課後になればもっと静かな空間になる。 その静けさが景慈は好きなんだろう。 小さな森を作る木群れの様に立ち並ぶ本棚の合間を、小さな足音を立てて歩く。 衣擦れの音。 本当に静かだ。 森を抜けると、机が整然と並ぶ閲覧室があって───、 景慈は大体、一番奥の窓際の席に此方に背を向けて座っている。 夕陽が窓に射し込んで、床に赤い陰を作る。 窓の外を見遣れば、夜の空からやって来た様な黒い雲が、ひとつふたつ、紅い空の中に混じり込んで居るのを見付けた。 時間は16:02、こんな時間にもう陽が沈むんだな、 移り行く季節を思って、なんとなく寂しい気持ちになる。 一日の終りを憂うのは人間であれば誰でも一緒だが───、 意外だったのは、夕陽を見つめて、景慈がため息を吐いたこと。
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