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これってドメスティックバイオレンス
「ただいま」
成岡透吾は靴を脱いで部屋に入った。
「おかえりぃ」
同居人の菊池暁浩が、風呂場から裸で出てきた。
透吾と暁浩は、前のバイトで知り合った。
今は透吾はバンド活動が忙しく、週に二回だけ、ライヴハウスでバイトをしている。
その給料のほとんどはバンド活動に費やされ、すでに同居、というよりも居候という感じだ。
つまり、言いにくいのだが、住むところも金もない透吾を暁浩が面倒をみてやっている。
しかし、暁浩にはちょっとした問題があった。
「おい、パンツぐらい履いて出てこいよ・・・って、お前また…」
風呂上がりの暁浩の身体にタオルをかけて、透吾はため息をついた。
「ん?」
「…キスマークついてる。そこと、そこ。
今日、デートだったのか?」
透吾は暁浩の首筋と肩の痣を軽く指で押さえた。
「うん。さっき帰ってきた。
あ、透吾ご飯食べた?小遣いもらったから、飯食いにいこーよ。」
暁浩はにっこりと微笑むと、透吾の手からタオルを取って、濡れている髪を拭いた。
「・・・暁浩、もうそういうのやめれば。お前、本当にそいつのこと好きなの。」
そう透吾が言うと、暁浩は突然不機嫌な顔をして透吾を睨んだ。
あ、やべ。
そう思ったがもう遅く、暁浩にタオルを思いきりぶつけられた。
「ほっとけよ。透吾に関係ないじゃん。」
ぷいっ、と背中を向けて、暁浩は部屋にこもってしまった。
バン、と勢いよく暁浩の部屋のドアが閉まると、透吾は頭にかかったタオルを取ってため息をついた。
5分したら謝りにいかねーとな。
いつもこの調子だから、暁浩の機嫌が落ち着くタイミングは心得ている。
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