出会いは予期せず唐突に

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出会いは予期せず唐突に

先代王が逝去し、いまだ若い新魔王が王位を受け継いだのはもう一年も前のことだ。 一年と言う時間は父の死の悲しみを和らげ、政務に身を慣れさせるには十分過ぎ、既に若き新魔王、リオン・アルダネイトは先代にも負けない政務に身をやつしていた。 「よし、この承諾書をミネアの所に届ければ終わりだ」 机の上にペンを置き、リオンはそう漏らすと二つにたたんだ羊皮紙を封筒にしまい、ロウで封を閉じた。 それから一旦目を離し、黒縁のローブをコートかけから下ろし、かぶる。 そして机の上の封書をとると真っ直ぐに先ほど作業をしていた机の後ろ、大きくそびえた窓に向かい、それを開け放つ。 開け放たれたそこに広がった景色は荘厳そのものだった。 リオンはこの周囲では最も高い地形に城を構え、さらに高い位置に部屋を用いている。 そのため足元を目で見ることは叶わない。 見上げれば空はどこまでも透き通った青で、見回せば大地はどこまでも深い緑に染まっている。 この景色を見て一体誰が魔界を想像するだろうか。 この魔界には人間界とは比べものにならない程の命が溢れていた。 「そういえば、ミネアに会うのも久しぶりだな」 リオンは嬉しそうな表情をした。 その表情を浮かべたと認められたその次の瞬間には魔王は身を空中に踊らせていた。 もう随分と自然落下した。 ついには地面が目で確認出来るほどに。 普通、生き物ならこの高さから落ちることはほぼ確実に死を意味する。 しかしリオンは自ら身を踊らせたのだ。 さらに、表情は余裕…むしろ楽しそうでもあった。 「イー、モウ、リース、プロウド、エインス」 人間界には存在しない言語でリオンは何かを唱えた。 そして地面は目の前に迫り接触する。 …ことはなくリオンの体は地面の中へと、まるで何もなかったかのように潜行した。
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