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怒りは込み上げてこなかった。悲しみも、憎しみも、なにも込み上げてこなかった。何も考えることができなくなっていた。
「お前が気の済むまで殴ってくれ」
俺が何も答えないと、マコトが顔を上げる。目には涙が浮かんでいた。長い付き合いだが、マコトの涙を見たのはこの時が初めてだ。
「許してくれなんて言わない。だけど、ユカとのこと、おまえには認めて欲しい」
マコトが懇願した。それから、ずっと、二人のあの繰り返しが続いた。俺は魂が抜けたように、二人のやりとりを何を言うでもなく、怒るでもなく、泣くでもなく、ただ、見つめていた。そして、ほどなくして、そのまま、何も言わずに二人を置いて店を出た。
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