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洸はそう言うと、毅の唇に自分のそれを重ねた。
───俺にとって、それは初めての感覚だった。
キス自体が初めてだった訳ではなく、毅の唇の感触が、今まで付き合って来た女の中でも、一番気持ち良かったんだ…。
「ん…っ。や…っ❗に‥ちゃっんんっ❗」
「兄ちゃんやないって言うてるやろ…?洸って呼べや‥」
洸は、いつもより低い声で毅に言った。
洸は心の奥底では、この気持ちが恨みじゃないって事を知っていた…。
しかし、毅の幸せそうな顔を見ていたら、尚更、そう思わざるを得なかった…。
「…。兄ちゃん、どないしたん?何か変やで…?」
毅は、洸とのキスをなんとも思っていない様で、キョトンとしていた。
その態度に、洸は無性に腹が立った。
───俺は、こんな気持ちを秘めたまま葛藤し続けてるのに、毅には何でもないみたいだ。
…と。
「お前がこの家に来た時から、俺はお前が嫌いやったんや…。やから、ぐちゃぐちゃにしたる…」
心と裏腹な事を言ってるのは、自分が一番良く分かっている。
でも、こうしなければ、やっていけない。
もし、毅が洸の事を受け入れてくれても、洸にはそんな覚悟がなかった。
洸は、無表情な顔から一変し、毅にニヤリと笑いかけた。
「や…やや…。兄ちゃん?どないしたん?元に戻って‥?」
毅の顔は恐怖に歪み、洸はその表情に、益々気持ちが高ぶった様だ──…。
「どうしたん…?俺の事、恐いん‥?」
洸はニヤリと笑いながら、首を傾げた。
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