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「な、そんな馬鹿みたいな話……」
「本当ですよ」
女の少し笑う口元だけが、見えた。
「信じられないのなら、他の王子に聞いてみるといいですよ」
変に自信満々な声。僕はそれが気に障り、言い返した。
「それが間違いだったら、一生嘘つきって呼んでやるからな」
「かまいません」
クスクス笑い声を無視して、僕は飲み物を一気に飲み干す。
「王子、ひとつだけいいですか」
女は僕の返事も待たずに続ける。
「王子がこんなところにいると群集に知れ渡ると大変な騒ぎになりますから、名乗らないように」
わざと難しい言葉を使って話をしている。僕はカチンときたが、騒ぎになるのは確かだと思ったので、渋々頷く。
「ああ、着きました。あなた様に見せたかった場所です」
女は指差した。僕はその方向を見る。
「……なんだ、物置か?」
「いいえ、孤児院です。王様の仕掛けた戦争によって親を失った子どもたちの家です」
「……父様の?」
僕はいぶかしげに、小さな小屋を見つめた。
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