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街を焦土と化す死の赤光が、形なき虚空に埋もれる酸素を喰らい、爆ぜた。その禍々しい煉獄の景色を瞳に映しながら、まるで蟻のように人々は家屋から外へと飛び出し、街の外れへと四散する。
世に現れた地獄。まさにそれを作り出した異形の生物────ボロ切れのような黒翼を悠然と広げ、地上を見下ろす神を威嚇するかのように天を仰ぎ、民家をも凌ぐその巨躯にて人々を圧倒するその忌み名は、黒龍。数年に一度、人里へと降りては殺戮と破壊をもたらし、度々世間を騒がせてきた魔物だ。
「くそっ! 復興してきたばかりだというのに……」
悲痛な叫びは嘆きとなり、木材を侵蝕する紅の揺らめきの轟音に呑まれてゆく。逃げ遅れた人々も少なくはなく、まさに阿鼻叫喚と言ったところか。黒龍の咆哮と共に、炭化した瓦礫が崩れた。
もはや救いはないのか……。
逃げ惑う誰もがそう思いかけ、この惨状に希望を捨てようとしたその刹那、
「──────ッ!」
聳然と構えていた漆黒の異形が、鼓膜に突き刺さる怒号と共に崩れ、その頭部が大地を揺るがした。眉間を貫いた、破邪の投擲槍。酷い土埃の舞い上がる中、人々は黄金を纏う騎士の姿をその目に焼き付けた。
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