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雨。
酷く濁った空模様が、独りブランコに座る少年の心を表しているようだった。さほど強くはない雨ではあるが、長く外にいれば濡れるのは当たり前で、少年の全身からは弱酸性の水が滴っている。
(水も滴るいい男、ねえ……)
そんなものは戯言だ。先程の光景、脳裏に焼き付いて、しばらくは忘れられそうにない無様な自分の姿が目に浮かぶ。
眺めるだけで満足していればよかったのだ。高嶺の花に手を伸ばしたため、こうして足場が崩れ、もはや花を見ることすら出来ない今の彼がいるのだから。
笑い飛ばすなら思い切ってそうしてくれればいい。しかし、雨は押し殺した嘲笑のように、音はなく、強まる気配もない。
「おい、風邪ひくぞ」
はっとして顔を上げた少年の目に映ったのは、見慣れぬ少女だった。少年は、彼女の言葉が自分へ向けられたものであることを悟る。
「アンタもな」
一体何をしていたのか、少年に声を掛けた少女自身もずぶ濡れだった。しかし、表情だけは地上を照らす日の光に劣らない。
しばらく顔を見合わせた二人は、どちらからともなく笑い合った。
(雨降りも、捨てたもんじゃないな……)
いつの間にか、雨は止んでいた。
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