2 バニシング・ツイン ~Twins~

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2 バニシング・ツイン ~Twins~

「お前が双子と診断されたというのまで話したな。けれども、生まれてきたのは宙、一人だけだ。」 「双子なのに、生まれてきたのは僕だけ……もしかして、流産?」 「流産に似ているのかもしれんな。母さんの症状はその前の状態で、稀なケースだったらしいからな。宙はバニシング・ツインという言葉を聞いたことあるか?」 「バニシング・ツイン?」 「医学用語で双生児の症状、つまり双子の症状だ。それとこれは生まれるときか妊娠中に起こる症状なのだという。流産もこの一つに入るらしい。と言っても、当時の母さんの担当医師に聞いただけだからあまり覚えていないから、うろ覚えかもしれんな。確か双胎妊娠をしながら、ごく早期に一方が流れてしまい、結果として単胎妊娠の形になることをバニシング・ツインというらしい。 研究者の中には、実はほとんどのケースでごく早期には多胎受精になっているが妊娠が確認される時期には単胎になっているのではないか、という仮説を立てている者もいるらしいな。概ねこんな内容だったかな。」 「それで、その話がどういうことになるのさ?」 「お前が産まれるとき、妊娠時には受精卵は二つあった。しかし、産まれる過程において葵はその受精卵ごと無くなった。妊娠している母さんの中からいなくなった。初めからなにもなかったように。でも父さん達は理由があったんじゃないかと思っている。」 「理由?」 「ああ。消えてしまう理由があった。父さん達は答えが出ている。でも宙の答えは違うかもしれない。それをこれから探していかなければならない。わかるな?」 「……言いたいことはわかった。父さん達の答えってなに?」 「それを言ったら意味がない。言ったら宙の考えがまとまってしまうかもしれないだろ?」 「うん……そうだね。僕の答えが見つかったら聞いてみることにするよ。いい?」 「そのときは教えてやるさ。」 父さんは笑って答えてくれる。母さんは泣いているけど、その顔は笑っている。 「うん、考えてみる。葵のこと、いろんなこと、まだ何もわからないかもしれないけれどもこれから先のことも少しずつ知っていきたい。」 僕はそう答えてから疑問が浮かんだ。 なぜ、僕の名前が葵ではなく、宙なのかということ。
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